裁量労働制は、労働時間制度の一つです。
新しい制度として取り入れる企業は増えていますが、従業員からあまり良い印象を持たれていません。
「ブラック企業の温床」「働かせ放題」など、悪い印象で語る人も多いものです。
では具体的に何が問題なのか、そして裁量労働制は本当に悪なのか、裁量労働制の仕組みや問題点などを明らかにしてみましょう。
裁量労働制とは
裁量労働制とは一体どんな制度なのか、その目的と対象業務を知っておきましょう。
裁量労働制の概要
裁量労働制は、みなし労働時間制という労働時間制度の一種です。
実際に働いた時間数ではなく、働いたとみなした時間に対してお給料を払います。
たとえば労働時間を1日7時間と決めた場合には、その人が実際に4時間働こうが10時間働こうが、7時間働いたとみなされます。
裁量労働制の目的
裁量労働制は、働き方を労働者の裁量にゆだねるための制度です。
仕事の内容によっては、個々の労働者が自由に独自の時間配分ややり方で働いた方が効率的な場合があります。
そんな時に裁量労働制を取ることで、より働きやすく、能力を発揮しやすくなるのです。
裁量労働制によって、労働者は自分のやりやすいように働けて、企業もそんな労働者の働き方に振り回されず最低限の勤怠管理と給料計算で手間を省けることになります。
裁量労働制の対象業務
裁量労働制は、その働き方が必要である業務内容に限って認められています。
対象となるのは、いわゆる専門職と時間に捉われると仕事しにくい業務の2タイプです。
2つは以下の種類に分けられ、裁量労働制を採っても良いことが決められています。
専門業務型裁量労働制
研究開発やクリエイティブな仕事など、19の業務が対象。
一部の士業なども対象となります。
企画業務型裁量労働制
対象業務は限定されていませんが、企業の運営や企画系の業務にあたる人が対象となります。
裁量労働制の基本ルール
裁量労働制が良い制度かどうか知るためには、まず基本ルールを知ることから。
どんなルールに基づき、裁量労働制が運用されるのか理解しておきましょう。
裁量労働制の労働時間
裁量労働制では、実際に労働する時間は労働者自身の自由になります。
契約で定められるのは、あくまでも「みなし労働時間」であり、契約上の労働時間を守って働く必要はありません。
契約で決めた労働時間より長くても短くても、始業や終業しても良いのが裁量労働制です。
裁量労働制の遅刻・早退・有給休暇
裁量労働制の労働時間は原則的に自由です。
実際に働いた時間が契約で決めた労働時間より短くても、契約上の労働時間分働いたことになります。
たとえば1日7時間で契約した人が5時間しか働かなくても、2時間分の有給休暇を使う必要はありません。
また、遅刻や早退扱いになることもありません。
そもそも、裁量労働制には、遅刻や早退という概念はないのです。
(有給休暇はあります)
裁量労働制の給料・残業手当
裁量労働制の給料は、基本的には一定です。
原則、残業という概念もなく、どれだけ長く働いても残業手当などは発生しません。
1日7時間で契約した人は、10時間働いても残業代はゼロです。
例外)時間外手当が付く時
みなし労働時間を実際の労働時間が超えようが不足しようが関係ない裁量労働制ですが、
一つだけ時間外手当(つまり残業手当)が発生するケースがあります。
それが、契約で決めたみなし労働時間がそもそも法定労働時間を超えている場合です。
契約した労働時間が9時間の場合、労働基準法の法定労働時間である「1日8時間」を超えた1時間分が残業扱いとなります。
また、深夜労働や法定休日の出勤なども割増手当の対象です。
フレックスタイムとの違い
フレックスタイムも労働時間制度の一種であり、比較的自由に出退勤できる働き方です。
しかし、フレックスタイム制にはみなし労働時間という概念はなく、自分で実際の労働時間を短くすることはできません。
また、フレックスタイム制度には、コアタイムと呼ばれる「必ず勤務していなければいけない時間」があります。
リスクだけ?裁量労働制の問題点・メリットはあるか
裁量労働制は問題点の多い働き方として、一部の労働者からはあまり良い印象を持たれていません。
実際に世間では間違った認識によって裁量労働制がリスクのある働き方になっていることがあります。
「定額働かせ放題」と言われる裁量労働制の闇
裁量労働制は、どれだけ働いても、実際の労働に関係なく契約した労働時間で給料が出ます。
そのため、一部の人からは「定額働かせ放題」とも呼ばれています。
契約で労働時間を短く設定しておき、実際にはその時間では終わり切らない大量の仕事を与える悪質な企業もあるようです。
ブラック企業の温床に
裁量労働制は、好きなだけ労働者を働かせようとするブラック企業を増やす温床になりかねません。
ブラック企業が裁量労働制を利用して行うのは、長時間労働させているのに手当を払わず少ない給料で済ませようとする悪質な手段です。
労働者を契約で縛ることで、手当なしに長く働かせようとしているのです。
裁量労働制を悪用するブラック企業は多いため、求人情報などで裁量労働制を見かけたら少し警戒した方が良いでしょう。
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正しく運用できない企業もまだ多い
特に悪質な企業ではなくても、裁量労働制を正しく理解し、正しく運用できていないことがあります。
企業が仕組みやルールを知らないため、長時間労働や手当の不払いなどが知らないうちに発生して、そのまま何事もないように時間だけが過ぎていきます。
悪意の有無はともかく、実際にそんな状況が続けば従業員は疲弊し、不満も溜まります。
上司や同僚などが善良で人的には問題ない会社でも、環境がなんとなくブラックだと感じた場合、このケースかもしれません。
正しく運用されればメリットも
裁量労働制は問題が起こりやすい面もありますが、正しい知識を持った上で実施されれば、非常に働きやすい制度となることもあります。
裁量労働制が正しく運用され、本来の目的を果たせたら、これほど従業員のためになる制度はないでしょう。
自由な働き方を手に入れられる
裁量労働制が正しく実施されたら、従業員は勤務時間の縛りから解放され、好きな時に好きなだけ働けます。
また、朝働きたい人、夜働きたい人など、その人のライフサイクルに従い、自分が一番能力を発揮できるタイミングに合わせて働くことも可能です。
今日は用事があるから短時間、明日は集中して長時間、といった働き方の調節もできます。
リモートワークとの相性もいい
裁量労働制は、近年増加中のリモートワークとも相性抜群です。
リモートワークも、どちらかというと上司の目が届かず、各自がその人の裁量で業務を遂行する必要があります。
上司も会社も従業員の動きを管理しにくいため、実際にこなした業務量や成果などで管理できる裁量労働制は助かります。
裁量労働制の注意点
裁量労働制は、ブラックになりかねないリスクを含んだ労働時間制度です。
そのため、裁量労働制で働く際には、従業員としても正しい知識と強い意志が必要となります。
会社からの指示が間違っていたら黙認しない
会社からの労働時間や働き方への指示が間違っていた場合には、黙認やがまんをせず、毅然とした態度で対応することが必要です。
裁量労働制では、基本的に会社から労働時間や出退勤時間を指定されることはありません。
休日出勤などで「事前に申請してね」「申請用紙はこれを使ってね」といった手続き上の指示を受けることはありますが、労働時間はその人の自由です。
裁量労働制なのに「今日は8時まで働いてね」といった指示(強制)をするのはNG、ブラック企業の可能性があります。
手当の発生を見逃さない
裁量労働制は原則、残業手当などが発生しない働き方です。
しかし、状況によっては手当が発生することがあるため、もらえるはずの手当を見逃さないようにしましょう。
手当の発生条件:残業
割増賃金は裁量労働制でも、労働基準法のルールの範囲で発生するものです。
発生条件は、労働基準法で定められた法定労働時間である「1日8時間、週40時間」を超えた契約です。
法定労働時間を超えた残業には、時間あたり25%以上の割増賃金が払われます。
1日9時間のみなし労働時間で契約したら、毎日1時間ずつの残業ということになります。
1日8時間、週6日勤務で契約したら、週48時間となるため法定労働時間を超えた8時間が残業です。 |
手当の発生条件:休日出勤・深夜労働
休日出勤や深夜労働をした時は、割増賃金が発生します。
深夜勤務にあたるのは夜10時~翌朝5時までに働いた場合です。
深夜に働いた場合には、25%以上の割増が必要となります。
法定休日働いた場合には、35%以上の割増です。
(所定休日は上記残業代と同じ)
裁量労働制は正しく実施すれば悪ではないけれど・・・
裁量労働制はリスクも多いけれど、正しいやり方で運用できれば良い面もある制度です。
しかし、まだまだ実施する企業の認知も進んでおらず、しかも制度自体が比較的複雑なため、上手くいかないケースも多くみられます。
また、ブラック企業が制度を悪用することも多く、求人情報などで裁量労働制を見つけたら注意深く企業の体質を見極めることも必要です。
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