起業で成功する(失敗しない)ためには、リスクマネジメントが重要です。
昨今、独立起業やフリーランスといった働き方を選択する人も増えてきましたが、それでも起業は簡単なものではありません。
むしろ、失敗するリスクの方が圧倒的に高く、リスクをしっかり見据えておかないと足元をすくわれて、あっという間に廃業する危険性もあります。
「それでも起業したい!」と高みを目指す人のために、
- 起業でのリスクの捉え方
- 起業で想定しておくべきリスク
- 基本のリスク対策
について解説します。
起業ではリスクに対する準備が必要
起業には、会社員時代とは違って、自分のやりたい事業をやりたいように進めていける楽しみがあります。
しかし、その一方で、起業家は誰も助けてくれない状況で、1人リスクを背負っていかなければなりません。
独立起業では、リスクは避けられないという考えに基づいて、正しく危険を避ける準備をしていく必要があります。
起業にリスクはつきもの
起業にはリスクが付きものです。
起業をすると、会社員時代のように会社の助けや恩恵を受けることはできなくなります。
さまざまなリスクを自分自身で負い、失敗しても誰も助けてはくれない働き方なのです。
起業は、会社員という安定した立場を捨て、1人で社会や市場に飛び出す行為です。
会社員時代には、安定した給料があり、仕事は会社の後ろ盾を得て進められ、ミスしても大体のことは会社がカバーしてくれました。
しかし、独立起業では、そうした会社の助けが全く無くなり、すべて自分が責任を取らなければいけません。
リスクに備える気持ちが重要
起業を考える時、多くの人はやりがいと夢と希望に満ち溢れた明るい未来を描くはずです。
そういった前向きでポジティブ、積極的な姿勢や思考は起業家にとって大切ですが、現実的にはそう甘くはありません。
夢や希望、明るい未来予想図を描きつつも、常にリスクに備えておくことが大切です。
明るい未来は、適切にリスクに備え、リスクを回避する手段を準備することで、見えてきます。
リスクは怖がるものではなく「今後の課題」にすぎない
起業家のリスクについて、不安を煽るような書き方をしましたが、リスクとは恐れるものではありません。
起業にはリスクはつきものですが、それは単なる「今後の課題」です。
リスクは解決すべき課題として考え、リスクを想定したら、それをどのように解消していくか、必要な手段を講じれば良いのです。
そのためにも、起業前に「自分の事業にはどんな課題があるか?」と客観的に明らかにしていくことが必要となります。
起業家がなんとなく恐れているリスクとは?
起業するにあたって、リスクを恐れる人は多いものです。
しかも、その恐れは漠然としたものであり、客観的な根拠や具体性のないことも。
そういった漠然とリスクを怖がる気持ちについて、少し振り返ってみましょう。
漠然としたリスクが多い
起業するためには、どんなことが必要だと思いますか?
- 今まで勤めていた会社を辞める
- お金をかけて会社を立ち上げる
- 家族がいるなら家族を説得する
その他にも、事業計画を立てる、融資の審査を受ける、など、初めて一人でやることがたくさんあります。
そういったやるべきことを漠然と思い浮かべ、「うわ~できるかな?」となんとなく不安がっているだけの人は多いものです。
「ひとりでは挫折しそう」
脱サラしての起業では、最初は一人で始めることも多くなります。
しかし、一人きりの孤独な作業に「モチベーションを維持できるかな」「自分1人の決断に自信が持てないな」などの不安を抱えることも。
「資金が足りなさそう」
「資金が足りなかったらどうしよう」「貯金だけで起業できるかな」といった金銭面の不安も多いもの。
しかし、この問題については、自分で計算して資金計画を立ててみるだけであっさり解消できます。
足りなかった場合でも、融資や助成金などの対処法はあるものです。
「みんなに応援してもらえなさそう」
家族や友人、退職予定の会社の同僚など、周囲の目を気にする人もいます。
生計を共にする人など、必ずクリアしなければいけない人はいます。
しかし、自分の知っている知人、友人全員から賛同してもらえないことはよくあることです。
漠然としたリスクは恐れるに足りない
ここに一例として挙げたリスクは、すべて漠然としたあいまいなものです。
こうしたリスクについては対処法も明確にありますし、放置しておいても良い、どうでもいい問題もあります。
そもそも、1人では怖い、起業を誰かに応援してもらいたい、などの気持ちは起業家として甘すぎます。
むしろこうした不安を持つこと自体が、気持ちの弱さとして起業のリスクになりそうです。
精神面の不安は自分1人で乗り越えよう
漠然とした不安やメンタル面については、とりあえず自分自身でクリアしましょう。
起業家になるためには、1人でも歯を食いしばって前に進む強さも必要です。
また誰かに反対されても、それを覆して協力者にするくらいのパワーとコミュニケーションスキルがないといけません。
まずは、精神面の不安は自分だけで乗り越えて、起業メンタルを作りましょう。
安易な共同経営者づくりはトラブルの原因に
1人での起業が不安だからといって、共同経営者を探す人がいます。
右も左も分からない起業のスタート時に誰かと支え合えるのは安心ですが、かといって安易に経営に引き入れるのはおすすめできません。
最初は仲良くなっていけても、意見の相違などから揉め事に発展する可能性があります。
共同経営者との揉め事は、事業の継続の可否に関わることもあるため、注意しましょう。
実際に起業で起こりえるリスク一覧
漠然とした起業への不安は自分自身で消化できますが、やはり現実的に考えておかなければいけないリスクもあります。
ここからは、実際に起業で起こりやすいトラブルのリスク、事前に具体的な対処法を検討しておきたいリスクを紹介します。
準備資金が足りないリスク
起業で最初に出てくるリスクは、準備資金が足りなくなるリスクです。
起業資金の調達方法には、
- 自分の預貯金
- 借入(融資)
- 補助金・助成金
- クラウドファンディング
などがあります。
これらの調達方法で集めた準備資金でオフィスや店舗の賃貸費用、設備費用、初期のランニングコストなどをまかなっていきます。
しかし、予想よりも金額が膨れ上がったり、想定外の出費が発生したりと、準備資金の範囲内で収まらないこともあります。
売上が上がらないリスク
起業でもっとも怖いのは、売上が上がらず収益が出ないリスクです。
しかし、独立起業ではこのリスクはよく起こりえるものでもあります。
主な原因としては以下のようなものがあり、これらが単独、もしくは複数絡み合って売上の不振が起こります。
- サービス・商品の問題
- マーケティングの問題
- 災害や天災・社会情勢の影響
サービスや売り込み方に問題がなかったとしても、社会の変化によって売れなくなることもあります。
どうにも避けようもないリスクや影響もあることを知っておいてください。
資金ショートのリスク
資金ショートとは、手元に現金がなくなって仕入れなどの支払いができなくなる状態のことです。
資金ショートすれば、会社は経営していけなくなり、倒産してしまいます。
商品が売れずランニングコストだけがかさむ、どこからも資金調達できなくなるといったことが原因です。
また、売上があっても、売掛金の回収が自社の支払日に間に合わなければ、資金ショートによって倒産することもあります。
それを黒字倒産といいます。
売掛金の回収ができないリスク
売掛金の回収ができないリスクは、事業として商品やサービスを売買する人特有のリスクです。
個人間の売買では現金のやり取りが基本ですが、会社間の取引の基本は掛売りです。
商品の代金を後払いにすることで、よりスムーズな取引を可能としています。
しかし、中には売掛金をなかなか支払ってもらえないケースもあります。
- 支払日が売上の翌々月など、そもそも支払いスパンが長すぎるケース
- 取引先の経営状況が悪くなって支払いが停滞しているケース
など、状況はさまざまです。
事業主の健康状態・生活習慣の悪化リスク
起業では、事業主の健康状態や生活習慣が悪くなるリスクもあります。
事業の立ち上げ当初は特に、事業を安定させるために奔走するものです。
そのため、会社員時代とは違って定時や営業時間を考えず、限界まで頑張ってしまうことがあります。
働きすぎによる体調不良
起業すると、(比喩でもなく)寝る間も惜しんで働く人がいます。
早く売上を上げたい、事業を軌道に乗せたいという思いは分かりますが、これは長時間労働や過重労働が増え、体調を崩す原因です。
仕事とプライベートの境がなくなる
起業すると、いつでも仕事のことが頭から離れず、プライベート時間も仕事をしてしまうことがあります。
また、家族といても事業について考えて上の空、何でも仕事に結びつけて考えてしまい、周囲から呆れられる人もいます。
人間関係悪化のリスク
家族や共同経営者、友人などとの関係でもリスクはあります。
起業の忙しさ、心の余裕のなさ、安定経営への焦りなどによって、周囲の人との関係が悪化するリスクです。
家族の無理解による一家離散リスク
家族を養っている、家計を担っている人の起業は、家族全員の問題です。
それにもかかわらず、忙しさにかまけて家族への説明を疎かにしていると、家族から愛想をつかされる恐れがあります。
家族に理解を仰がずに起業してしまった場合、失敗した時に協力してもらえず、見捨てられる可能性が高くなります。
安易な共同経営からの共同経営者との不仲
上記でも述べましたが、「不安」「心細い」等の安易な理由で共同経営者を引き入れると、意見の相違から関係性が悪くなることがあります。
どんなに仲のいい友人同士でも、お金が関係しているビジネスではシビアになるものです。
事業についてお互いに意見が食い違い、譲れない場合、会社は解散した上に友人関係まで解消する羽目になることもあります。
やみくもな売り込みによる人間関係悪化・友人離れ
事業を始めると、自分で営業して商品やサービスを売らなければなりません。
気軽な売り込み先として知人や友人に目を付ける人もいますが、あまりしつこく売り込みすぎると疎遠になる恐れがあります。
声をかけて協力を仰ぐ程度なら良いですが、何度も「買って」「誰かお客さんを紹介して」と食いつきすぎるのはNGです。
法律違反・契約違反のリスク
起業で始める事業の内容によっては、法律違反のリスクについても考えなければいけないことがあります。
法律違反は重大な問題に発展する可能性があるため、決して見逃せません。
許認可・法改正への対応ミス
許認可とは、特定の事業を行うために警察署、保健所、都道府県などの行政機関から取得するものです。
簡単にいえば「この事業をやってもいいよ」という許可にあたります。
こうした許認可には取得に時間がかかるもの、更新が必要なものもあり、取得が完了していない、途中で更新を忘れた場合、事業自体ができません。
また、事業を営む際に関係する法律が改正された場合、事業主として対応が求められることもあります。
こうした対応を忘れたり間違えたりすると、法律違反にあたり、事業を続けられなくなることもあります。
情報漏洩
取引先とのビジネスに関する情報を外部に漏らすことは契約違反にあたり、従業員の個人情報を漏らすことは法律違反です。
情報漏洩は事業主が気を付けていても、従業員が安易にSNSなどで発信してしまうこともあります。
起業リスクへの事前対策
起業では数多くのリスクを抱えることが分かりました。
しかし、これらのリスクの多くは事前準備や対策を講じておくことによって回避することも可能です。
できる限りの対策を講じ、リスクを回避、もしくは回避できなかった場合もダメージを軽減しましょう。
事業計画と具体的なスケジュールを組み立てる
事前の十分な計画はリスクを大幅に減らし、突発的なトラブルが起きた場合も早めの対処をできるようにしてくれます。
綿密な事業計画とスケジュールは、起業のリスクのうち売上やランニングコスト、手続きの問題を軽減し、焦らずじっくりと事業に取り組む基盤となるでしょう。
事業計画を立てることで、本当に起業してやっていけるか、稼げるか判断でき、途中で挫折するリスクも下げられます。
また、起業までのスケジュールや起業後の年間スケジュールを立てることで、目標を目指して効率よく動けるようになり、手続き忘れなどのミスも減ります。
専門家のアドバイスを受ける
起業の事業計画書作成は、初めての人には難しいものです。
そこで、創業支援などを利用して、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
商工会議所や中小企業庁の経営サポートなど、無料で利用できる窓口を探してみましょう。
総合的な相談が可能な創業・起業窓口相談と併せて、各分野の専門家を活用することで、より起業に向けた準備や手続きが明確なものとなります。各種専門家に無料でご相談いただけますので、賢く利用して起業準備を進めましょう。
手続きの年間計画も立てる
許認可や免許更新などの手続きが必要な事業を営む際には、手続き関係のスケジュールも一覧にまとめて管理しておくことが必要です。
業務効率化ソフトなどで管理するのもおすすめです。
資金計画を十分に煮詰める
資金計画も事業計画とともに十分に検討を深めておく必要があります。
初期費用とスタートしてからのランニングコストを把握し、売上がなかったとしても生活と事業を継続できる金額を算出します。
軌道に乗る前に資金ショートしてしまえば続けられないため、現実的に可能な計画を立てましょう。
資金から事業規模を考える
実際に調達できた資金が不足することが分かったら、事業規模を縮小することも大切です。
事業を軌道に乗せるまでには時間がかかり、その間は収入がなくなる恐れもあります。
そのため、規模を縮小することで初期費用を抑えてランニングコストに資金を回すなどの工夫が必要です。
キャッシュフローを意識する
中小企業の資金ショートの原因はキャッシュ不足です。
売掛金の支払いサイクルが長いため、売上は出ても現金がなくなり、自社の支払いができずに倒産することもあります。(黒字倒産)
そのため、起業する際には経営方針として現金を十分に確保することを重視することをおすすめします。
常に、今会社に現金がいくら残っており、○日後にはいくらになるか、といった状況を把握することで、資金ショートのリスクを抑えます。
家族には事業計画や今後の見通しをきちんと説明する
起業したばかりの人にとって、家族は最大の協力者です。
ないがしろにして起業するのは絶対に避けてください。
配偶者や兄弟、場合によっては成人している子どもに対し、事業計画や今後の生活についてなど、すべてきちんと話しておきましょう。
彼らが主に気にするのは、
- 暮らしていけるのか
- 生活が苦しくなるのではないか
- 借金まみれになるのではないか
- 家庭を省みなくなるのではないか
- 将来(老後)の資金が足りなくなるのではないか
などです。会社員として高給取りだった場合には特に心配するはずです。
また、家族から反対された場合には、どの点が問題なのか、明らかにして問題を改善できる方法についても検討すべきです。
一番近くにいて、家計の問題など不利益を被る恐れのある家族が納得できない起業は、事業主の精神衛生にもよくありません。
最初は小さな規模(副業・プチ起業)から試してみる
起業のあらゆるリスクを最小限に留めたい人は、本格的な独立起業や脱サラ起業ではなく、副業やプチ起業レベルから始めましょう。
副業やプチ起業であれば、会社設立や法人化の必要もなく、会社も辞めずに始められます。
まずはそういった小さな規模で試してみて、実際に稼げるかどうか見計らってから独立を考えるのも手です。
また、家族に説明する際にも、副業やプチ起業で実績があった方が説得しやすくなります。
事前対策でリスクを抑えた起業を
起業にはリスクはつきもので、実にありとあらゆるジャンルの課題や問題あります。
しかし、リスクがあってもきちんと対策を講じておけば、失敗を防げたり、被害を最小限に留められたりするものです。
起業を考えている人は、まずは自分の起業にどんなリスクがあるか書き出してみましょう。
リスクを恐れて起業を躊躇していた人も、案外具体的な形でリスクやその対処法が見えると怖くなくなるかもしれません。